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臨床心理士をしながら子育てをする主婦のブログ 

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~HSPについて~

 

HSPって何?

 

最近よく聞く、HSP(Highly Sensitive Person)、HSC(Highly Sensitive Child)…。

 

人一倍敏感で、様々な刺激に気づきすぎてしまうことで、疲れやすく生きづらいタイプ。

 

「自分もそうだ!」「うちの子、そうだ!」と言って相談にいらしてくれる方も増えてきました。

 

確かに敏感なタイプというのは昔から居て、神経症になりやすいとか、鬱になりやすいとか言われてきました。最近は発達障害ASD自閉症スペクトラム症)の特徴の中に、過敏さ、の項目があり、過敏である人がいる、ということに対する理解も深まってきました。

 

 

 

自分自身に目が向き、自分の辛さについてきちんと向き合っていこう!もっと楽に生きられるように考えていこう!という流れは非常にいいと思うのですが…

 

ただ、HSPの概念、精神科としては非常に扱いづらいんです…。

病院に行ったら、風邪です、とか、胃潰瘍です、とか、病名をつけるじゃないですか。精神科に行ったら、鬱です、とか、適応障害です、とか診断をつけるんですけど…

 

 

HSP、診断名じゃないんです!!

これが発達障害と違うところ。発達障害は、ASDADHD、LDなど、障害名として認められてるんですが、HSPはあくまで心理学者が提唱した“概念”にすぎないので、「恥ずかしがり屋タイプ」「心配性」といった、一般的な性格区分にすぎないんです…。

 

概念としては非常にわかりやすく、そういうタイプなんだ、ひとりじゃないんだ、と思えることで楽になる部分もあるので、とてもいい流れだなと思うんですが、

 

HSPなんですけど治してください!」

「HSCなんで、配慮してください!」と言われると、ちょっと困る。。。

 

 

心理士は診断をするわけではないので、正直発達障害だろうが、鬱だろうが、HSPだろうが、恥ずかしがり屋さんだろうが、やることは一緒で(もちろん見立てによって方向性は変わるんですけど)

「どうして相談しようと思ったの?」

「どんなことに困るの?」

「どういう状態になりたいの?」

みたいなところから話進むので、ぶっちゃけHSPだからどうこうってわけでもないんですが、、

 

しかし、これだけ流行っているのだから、少し考えていかなくてはと思い、HSPの方の本を読んでみました。

 

書籍紹介

生きづらいHSPのための自己肯定感を育てるレッスン

 

 

HSPの特性により生きづらさを感じ、うつ病になってしまった経験を通して、自身の体験とHSP特性との付き合い方についてまとめてくださった本です。

夫であり、精神科医の先生がコラム的にワードについての解説をしてくださっているので、非常にわかりやすいです。

 

チェックリストと、具体的な生活の工夫についてもかなり詳しく教えてくれています。

 

HSPについて考えるなら、HSPの人の体験談を!と思っていたので、非常にわかりやすく、読みやすい本でした!

 

以下、印象に残った部分と感想・現場での経験について思うところを…

 

 

HSPの生きづらさについて

 

  • 刺激に敏感

 

 これは結構きついと思います。最近は、マスク問題で、感覚過敏の人がマスクをつけられない、なんてことがニュースで特集されていたりもしましたが、感覚過敏による相談、非常に多い。

 

教育相談の中では、運動会のピストルの音が怖くて…とか、音楽の授業で気持ち悪くなる、チクチクが気になって制服が着れない、靴が履けない、なんてことがよくあります。

 

音に対してはイヤーマフで対応したり、感覚過敏に関しては別のものを着させてもらうなども学校にお願いすることがありますが、正直しんどいと思います。

中学生で制服着ないのとか、やっぱり難しいですもんね。

 

結局のところ、心の余裕?元気度?が減ってくると、過敏さがより際立ってくるところがあるので、エネルギー量を減らさないことに重きを置いて相談を進めることが多いのですが、

 

我慢する⇒疲れる⇒より敏感になる⇒我慢する…のループから抜け出すのけ結構難しい。

そりゃぁ疲れるよね、という感じです。

そこを周りにわかってもらえるだけでも少しちがうのかな?

 

 

過敏に関して、つら過ぎる場合は服薬することで少し楽になるケースもあったりします。

 

 

 

  • 場の空気で人間相関図がわかる

これ、すごいですよね。特殊能力!!

 

ただ、これについては少し疑問が…

 

ASDの特性に、空気が読めない、というのがありますが、ASDにも程度があって、ちょっと読める、ちょっとわかる、というタイプの人もいます。

 

ちょっとわかるがゆえに、頑張って空気を読まなくては!!と思いすぎて、疲れてしまう。

 

いつも空気について気を配っているので“自分は空気が読めている”“空気を読むのが得意だ”と思っていることが多いのですが、実は“空気が読むのが苦手だから人並み以上に頑張っている状態”であることが多い気がしています。

感覚的(視覚・聴覚等)には非常に敏感なために、情報過多すぎて、または、情報に優先順位がつかなくて、空気が適度に感じられない=空気が読めない、となっていることがあるように思えます。

 

それと、HSPの“空気が読めすぎる”というのとの差が正直よくわからないのですが、個人的にはかなり被ってくるのではないかと…

 

 

HSP、という概念にとらわれるのではなく、ASDの可能性も含めて特性理解を進めることで、使える工夫が増えてくるかもなぁとも思ってます。

 

 

  • 共感しすぎて引きずられてしまう

 

これは、境界性の問題であると本でも述べられていますが、他人のことを自分のことのように感じてしまう=自分と他人の境界(区別)が曖昧になりやすいことで起こるとされています。

 

境界性の問題…

ボーダーラインパーソナリティ(境界性人格障害)や統合失調症圏の方の特徴にもあるんです。

 

ボーダーラインパーソナリティの場合は、自分の気持ちと人の気持ちは一致しているはず!全部受け入れてくれる!全部わかってくれる!と思いがちで、そうでなかった場合に激しい怒りや不安が起きるために、感情の起伏が激しくなってしまいます。

 

統合失調症圏の場合は、他人の思っていることと自分の思っていることの区別がつかなくなってしまう、現実と非現実の区別があいまいになってしまうことで、幻聴や幻覚、被害妄想にもつながります。

 

病識があるかどうか、が1つの見分けのポイントになるのですが、HSP、ボーダーライン、統合失調症…境界性、という点で見ると、なんだかつながりがあるような…

 

要は程度の問題なのか?

 

先に述べたASDにも自己中心性、という意味で、自分が思っていることはみんな思っているはず、という感覚、自己と他者の区別がつきにくいという特徴があることがあります。

 

 

うーん…悩ましい。

 

こう考えると、HSPASD、ボーダーライン、統合失調症パーソナリティ、と区別すること自体どうなんだ?と思ってしまいます。

(もちろん服薬を考えると、診断名は必要になってくるのですが)

 

 

そういう人、そういう特徴もあるよね、そういうタイプだよね、と理解するのが一番いいのかな?

 

 

 

HSPと自己肯定感

 

この本では、特に自己肯定感について着目して話をしてくれています。

 

 

自己肯定感とは、自分は生きている価値が有る 大切な存在だと思えること。

生きてて大丈夫、という感覚をきちんと持てていることです。

 

自己肯定感もかなり流行ってるワードですよね。

 

 

HSPの特性を持っていると、自己肯定感がきちんと育ちにくい。

もちろんしっかりと育つ人もいるのですが、敏感さを理解してもらえたり、不安を共有してもらう経験が少なくなりがちですし、いつも不安な状態では、“自分はこれでいい”と思いづらくなりますもんね。

 

また、境界性の問題を強く抱えた状態では、自分(自己)をきちんと育てることが難しくなりがちなので、育っていない状態で“自信を持て”というのは無理ですよね。

 

 

本の中では、自己肯定感を育てなおす、として、自分で自分を大事に育てていく方法を紹介してくれています。

 

自己肯定感が低い状態だと、以下の思考パターンに陥りがち。そんな時の対処法についても書いてありましたので、一部ご紹介。

 

  • 完璧主義⇒「そんな日もあるよね」とあえて口にする

 

  • 0-100思考(白か黒かの考え方)⇒「それだけじゃないから!」とあえて自分にツッコミを入れる

 

  • 過度の一般化(みんなそう思っているはず!と思い込む)⇒事実を書き出してみる

 

 

 

自分を客観的に観る視点を持つ、ということが共通しているように思いました。

認知行動療法でもよく使われる、セルフモニタリングや例外探しに近いでしょうか。

 

自分で自分の状態を確認し、マイナスに行き過ぎないようにコントロールするイメージですかね。自分を守り、自分を大切にするという意味でとても大事なことです。

 

 

セルフケア・ヒーリング法

 

自分で自分を大事にしてあげることや、ストレス解消は、どんな人にも大事なことです。

 

相談の中でも、「どんなときにゆっくりできる?」「どんなことをすればエネルギーが回復できる?」と聞くことがありますが、これがスっと出てくる人は健康度高し!

 

自分にとって何が自分の栄養になるのか、って自分のことをよく考えて、大事にしている人にしか出てこないんですよね…

 

そこのバリエーションを増やすことが健康でいるためにも大切な気がします。

 

本の中でもたくさん紹介してくださっていました。

 

・人にしてあげたいことを自分にもする

 

・褒め療法(今できていることを認めて褒めるetc)

 

・逃げるのもあり 

 

・人との境界線を意識する (人間関係のマイルールを作る 3回嫌なことがあったらしばらく会わないetc)

 

自分を大事にするって、簡単そうで難しい…

これを実践できるのは素晴らしいですよね。自分を褒めているのを聞いてもらえる人がいるとよりいいのかなと思います。

 

人間関係のマイルール!素晴らしい!!壁に書いて貼っておきたい!(笑)

嫌なら会わない。その人はそう思ったかもしれないけど、自分は違うから!って思えるって結構大事だと思います。それが出来るだけで人間関係がすごく楽になる気がする。

 

 

その他、自分を大事にする、癒す、という意味で、以下のことも紹介してくださっています。

・食事

 

・タッピング

 

アファメーション

 

・瞑想

 

・ツボ

 

・アロマ

 

・体を動かす

 

・セーフティボックス(大事なもの、これがあると安心、と思えるものを入れる箱)

 

・ハンドマッサージ

 

 

 

すごい。

自分で自分を癒すこと、いわゆるリラックス法については、バリエーションが多いほどいいように思います。これだけあれば、その時にフィットしたものを選べる。素晴らしい。

 

ほんと、気持ちは体からですね。

体を大事にすることは心を大事にすることと非常につながっている。

 

なんか、相談に来る前に体のマッサージして来て!と言うのが効果的なんじゃないかと思うくらい(苦笑)

 

まずはちゃんと食べる、体を休める、筋肉を緩める、みたいなところから始める、というのはやっぱり大切なんですね。

 

 

 

あとがき

 

HSPにしても、発達障害にしても、スペクトラム、グラデーションという概念で考えていこう、と言う流れになっています。

要は程度の問題。全く敏感でない人はいないし、全く発達に偏りがない人もいない。

 

そういう意味で、どんな人にとっても大事なことが、たくさん書いてある本でした。